東京地方裁判所 昭和44年(借チ)12号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔主文〕 1、申立人らが相手方に本裁判確定の日から三月以内に金一七〇九万円を支払うこと条件に、別紙目録(一)及び別紙目録(二)記載の各借地契約の目的を堅固建物所有に変更する。
2、前項により借地契約の目的が変更された場合、(一)各借地期間を前項の金員の支払がなされた日から三〇年延長し、(二)各賃料を前項の金員の支払がなされた月の翌月から3.3平方米につき一一八円に改める。
〔決定理由〕(申立の要旨)
一、申立人堀野正雄は、相手方から賃借中の東京都目黒区中根二丁目六二番地五三四坪のうち二九二坪九合の上に家屋番号二六九番二木造スレート葺二階建工場床面積一階一一二坪二合五勺二階一〇八坪五合を所有している。借地契約の内容は、別紙目録(一)記載のとおりである。
二、申立人堀野雅子は、相手方から賃借中の右宅地一筆五三四坪のうち二四二坪の上に家屋番号二六九番三木造スレート葺二階建工場床面積一階一一二坪二合五勺二階一〇八坪五合を所有している。借地契約の内容は、別紙目録(二)記載のとおりである。
三、申立人らは、右工場二棟を取り毀し、そのあとに、共同で鉄筋コンクリート造五階又は六階の建物を建て、これを工場、事務所兼共同住宅として使用したい計画を樹てているが、借地契約の目的を非堅固建物所有から堅固建物に変更することにつき、相手方と協議が調わない。
四、本件借地を含む附近の土地は、借地契約当時は木造建物が群集していたが、その後昭和二六年三月一三日準防火地域の指定を受け、昭和三七年以来本件借地の近隣に鉄筋コンクリート造の高層建物が建てられるにいたり、客観的事情の変更により、現に、借地権を設定するにおいては堅固建物の所有を目的とすることを相当とするにいたつているので、借地条件変更の裁判を求める。
(決定理由)
一、本件の資料によると、申立の要旨として掲げた一、二の事実のほか申立人ら両名の各借地の面積の合計が五三四坪であることが認められる。
二、そこで、借地契約の目的を非堅固建物所有から堅固建物所有に変更するのを相当とするかどうかについて検討する。鑑定委員会の提出した意見書には、本件借地附近は、鉄筋コンクリート造の建物が蝟集している地域であると記載されているが、実況見分の結果によると、本件借地は、東横線都立大学駅より南下する幅員八米の公道に接し、右公道に面する両側は、住宅店舗、中小工場が混在し、その間鉄筋造の高層建物も存在はするが、その数は僅かであり、また、右公道の両背面は、中以上の住宅地で、木造の居宅が圧倒的に多く、その間にマンション等の高層建物が散在するに過ぎず、意見書にいう如く、鉄筋コンクリート造の建物が蝟集している地域とは認められず、土地の利用状況からすれば、堅固建物の所有を目的とすることを相当とするにいたつたとは認め難い。しかし、本件の資料によると、本件借地上の建物二棟は、戦前の建築にかかり、申立人らが借地権と共に買い受けたもので相当老朽化しており、いずれは改築しなければならないが、右二棟とも延べ面積が五〇〇平方米以上一五〇〇平方米未満であるので、本件借地が準防火地域の指定を受けている関係上、同規模の改築をするにも、これを耐火建築物又は簡易耐火建築物にせざるを得ず、本件は条件変更の申立であるが、実質は改築であるので、借地契約後に準防火地域の指定を受けたことは、本件借地上の建物からすれば、堅固建物の所有を目的とするのを相当とするにいたつた客観的事情の変更に該当するものというべく、従つて、本件申立は、これを認容すべきである。
次に、附随の処分について考える。鑑定委員会は、財産上の給付額の算定につき、(イ) 借地権価格の増加分相当額に更新料相当額を加算して得た額 (ロ) 近隣における条件変更の事例による額 (ハ) 更新料相当額に借地の利用効率の増加率を乗じた額の三方式による給付額を算出し、その合計額の三分の一が給付額として相当であるとし、なお、更新料については、これを不足地代の連年の集積額と見ている。
更新料の実態は必ずしも明らかとはいえないが、鑑定委員会のいうごとく、不足地代の集積額とするならば、不足地代の支払を命ずるには、右不足分の支払についての当事者間の合意が必要であり、右合意がないのに財産上の給付の一部としてこれが支払を命ずることはできない。また、更新料の実質が賃料以外のものであれば、かかるものを支払うことは、それが契約であるにせよ慣行であるにせよ借地人に不利であり、借地法第一一条により、その支払を命ずることはできないのであるから、財産上の給付につき更新料を取り入れることは相当でない。
右のように、財産上の給付に更新料を取り入れる余地はないのであるから、鑑定委員会の前記考え方のうち、更新料を前提とする(ハ)の考え方及び(イ)の考え方のうち更新料を考慮に入れた部分は、採用し難く、条件変更の事例を参考にした(ロ)の考え方も、右事例なるものの中味が問題であり、単に事例だというだけで、これを採用するには躊躇せざるをえない。
本件のように高層建物が建築しうる土地であるのに、非堅固建物所有目的という契約の枠で縛られている場合には、右契約により土地の利用効率が阻害されているのであるから、その土地の借地権価格は、右枠のないすなわち堅固建物所有目的の借地権価格より小さいことは当然である。条件変更の裁判は、右の枠を外すことであるので、借地権価格の増加を来すことになる。この借地権価格の増加分は、条件変更の裁判により借地人が取得した堅固建物を建築しうる権利の対価ともいうべきものであるから、財産上の給付として、右対価相当分は賃貸人に支払わしめるのが衡平であり、また、土地利用効率の増加に伴い、賃料の改定も当然考えられて然るべきである。
申立人らが、条件変更の裁判を得た後本件借地上に堅固建物を建築すると、申立人らは、種々の点において従前以上の利益を得、また、相手方は、種々の点において従前以上の不利益を受ける結果になるが、これら利益、不利益は、条件変更の裁判により申立人らが取得した権利、すなわち堅固建物を建築しうる権利の反射であるから、財産上の給付としては、右権利自体の経済的評価(借地権価格の増加)を問題とすれば足り、右の如き利益、不利益を考慮する必要はない。
鑑定委員会は、条件変更の裁判により、本件借地権価格は、更地価格の一〇%増加するとし、更地価格を3.3平方米三二万円と評価する。右意見に従うこととし、これにより財産上の給付額を計算すると借地全部につき金一七〇九万円(万円未満四捨五入)となる。
よつて、本裁判確定の日から三月以内に右金員を支払うことを条件に本件申立を認容することとし、また、期間を延長し、賃料を鑑定委員会の意見に従い3.3平方米につき月一一八円に改定するのを相当とし、主文のとおり決定する。
(小山俊彦)
目録 (一)
土地賃貸借契約
一、当事者
賃貸人 相手方
賃借人 申立人堀野正雄
二、借地
東京都目黒区中根二丁目六二番地宅地1765.28平方米(534坪)の内968.26平方米(292坪9合)
三、目的
木造建物所有
四、期間
昭和五五年一〇月一五日まで
五、賃料
昭和四四年四月一日以降一ケ月二万六、四〇〇円
目録 (二)
土地賃貸借契約
一、当事者
賃貸人 相手方
賃借人 申立人堀野雅子
二、借地
東京都目黒区中根二丁目六二番宅地1765.28平方米(534坪)の内799.99平方米(242坪)
三、目的
非堅固建物所有
四、期間
昭和五五年九月六日まで
五、賃料
昭和四四年四月一日以降一ケ月二万一、八〇〇円